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福岡地方裁判所 平成3年(ワ)2446号 判決

原告

破産者平成建設株式会社破産管財人

岩本洋一

右訴訟代理人弁護士

岩田務

被告

株式会社西日本銀行

右代表者代表取締役

後藤達太

右訴訟代理人弁護士

三浦邦俊

右訴訟復代理人弁護士

李博盛

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録記載一及び二の各土地につきなされた別紙登記目録記載一の根抵当権設定登記並びに別紙物件目録記載三ないし七の各土地につきなされた別紙登記目録記載二の根抵当権設定登記について、それぞれ否認の登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

本件は、破産者平成建設株式会社(以下「破産会社」という。)の破産管財人である原告が被告に対し、別紙物件目録記載一及び二の各土地(以下「甲土地」という。)につきなされた別紙物件目録記載一の根抵当権設定登記(以下「甲登記」という。)並びに別紙物件目録記載三ないし七の各土地(以下「乙土地」といい、甲土地と合わせて「本件土地」という。)につきなされた別紙物件目録記載二の根抵当権設定登記(以下「乙登記」といい、甲登記と合わせて「本件登記」という。)について、その原因行為である根抵当権設定契約を破産法七二条一号又は四号に基づき否認するとして、本件登記につき、それぞれ否認の登記手続を求めるものである。

一  争いのない事実

1  破産会社は、平成三年六月一二日に第一回目の、同月一三日には第二回目の手形不渡を出し、同月一八日銀行取引停止処分を受けた。破産会社は同月二八日、支払不能を理由として福岡地方裁判所に自己破産の申立をし、同年七月一一日午前一〇時、同裁判所において破産宣告を受けた。原告は、右破産宣告と同時に選任された破産会杜の破産管財人である。

2  破産会社は、被告との間で、平成三年六月六日、甲土地につき極度額を二〇〇〇万円とする根抵当権設定契約(以下「甲契約」という。)を締結して甲登記を経由し、同月一二日には、右の追加担保として、乙土地につき同じく極度額を二〇〇〇万円とする根抵当権設定契約(以下「乙契約」といい、甲契約と合わせて「本件根抵当権設定契約」という。)を締結して乙登記を経由した。

なお、本件根抵当権設定契約はいずれも、被告が平成三年三月一三日、破産会社に対し、株式会社スターリング(以下「スターリング」という。)から入る予定の請負工事残代金を返済財源として、手形貸付の方法により貸し付けた二〇〇〇万円(以下「本件手形金」という。)の支払を担保するためになされたものである。

3  本件根抵当権設定契約はいずれも、破産会社の支払停止又は破産申立の前三〇日内になされたものである。

4  原告は被告に対し、平成三年一一月一八日に送達された本件訴状をもって、本件根抵当権設定契約をいずれも否認する旨の意思表示をした。

二  原告の主張

1  破産法七二条一号に基づく否認

(一) 本件根抵当権設定契約はいずれも、破産債権者を害するものである。

(二) 破産会社代表者友成孝男(以下「友成」という。)は、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知っていた。すなわち、

(1) 破産会社の経営は、平成二年八月ころから厳しくなり、同年一〇月には販売用の土地の一部を売却して資金を捻出するという事態に追い込まれていた。そして、平成三年二月末ころからは、支払の延滞が生じるようになり、高利の金を借りてはその返済を迫られ、手をつけてはならない販売用の土地に後順位の根抵当権設定登記や売買予約の仮登記を付けるようになっていた。このため、本件根抵当権設定契約を締結した同年六月ころには、破産会社所有の百数十件を超える不動産の中で、担保余力のあるものは、幾分かあるという程度しか残っていなかった。

(2) 破産会社の経営状態が特に悪くなった平成三年三月末以降、友成は金策のみに明け暮れるようになり、自分が債権者に対し、何を言ったかわからないような状態にまで追い込まれていた。

(三) 被告の主張1(三)は否認ないし争う。

被告が本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知っていたことは明らかである。すなわち、

(1) 被告は本件手形金の支払につき、平成三年四月末以降二度にわたって手形の書換をしたが、返済財源として予定していたスターリングからの入金が遅れたため、その支払を得ることができず、同年五月一三日、同月二九日、同月三一日と頻繁に、破産会社との間で、スターリングに対する請負工事残代金債権の譲渡について折衝を重ね、その結果、債権譲渡の承諾こそ得られなかったものの、その支払用に同年六月四日付の小切手の交付を受けることとなった。しかし、この小切手についても破産会社において資金調達ができず、依頼返却に応じざるをえなくなったため、結局、本件手形金の支払を得ることはできなかった。

(2) このため被告は、破産会社の支払能力に強い不信感を抱き、同年六月五日には、破産会社の定期性預金の出金を禁止するという非常手段に出るとともに、破産会社の不動産に対する仮差押えの準備を始めた。

(3) 被告は、破産会社のメインバンクともいうべき主要な取引銀行であり、破産会社の資産及び負債の報告を受けながら、その再建を目指し運動資金の提供をしていた銀行である。その被告が破産会社の不動産につき仮差押えの準備をするということは、破産会社を完全に見限ったということであり、本件根抵当権設定契約締結当時、被告が破産債権者を害するのを知っていたことは明らかである。

2  破産法七二条四号に基づく否認

(一) 本件根抵当権設定契約はいずれも、破産債権者を害するものである。

(二) 本件根抵当権設定契約の締結はいずれも、破産会社の義務に属さないものである。

(三) 被告の主張2(三)は否認ないし争う。

三  被告の主張

1  原告の主張1に対し

(一) 原告の主張1(一)は否認ないし争う。

(二) 原告の主張1(二)は否認ないし争う。

(三) 被告は、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知らなかった。すなわち、

(1) 破産会社が第一回目の手形不渡を出したのは、本来の手形決済日の前日である平成三年六月一二日であり、破産会社としても同日に手形が支払に回ってくることは、失念ないし予期していなかったものであって、ましてや被告が知りうべきものではなかった。

(2) 被告は、破産会社が手形不渡を出す前月まで継続して支払手形の決済資金を融資してきており、融資の際には、破産会社から、引当て財源となる工事代金の入金予定、担保余力判断のための商品土地の明細、負債内容等について、具体的な資料の提供及び説明を受けていた。そのなかで被告は、運転資金融資の引当てとなる工事代金について、平成三年三月末現在で、三六億二四一五万円の工事を請け負っており、入金予定も同年八月末までに二五億九五二三万円余りあるとの報告を受けていたし、商品土地の明細表からも、破産会社の担保余力が少なからずあると算出していたものである。

(3) その後、本件手形金について延滞が発生し、当初の支払期限の平成三年三月二九日を同年四月三〇日に、そして同年五月一〇日に順次延期されたにもかかわらず、被告は破産会社に対し、同年四月一五日に二三〇〇万円、同年五月一三日に二九〇〇万円をそれぞれ支払手形の決済資金として融資している。これは、本件手形金延滞の理由がスターリングからの入金遅れにあると、被告にもはっきりわかっていたからであり、破産会社においても、スターリングの工事代金が入ってから払いましょうと約束していたからこそ、被告は、破産会社の支払能力に不信の念を抱くことなく、新規融資に応じたものである。

(4) 平成三年六月一三日の支払手形決済資金の支援をする前提として、被告は、延滞分の正常化のため、破産会社から同年六月四日付の小切手の交付を受けていたが、結局これが依頼返却となったため、これに代わるものとして破産会社が自発的に担保提供してきたのが、本件土地である。これにより、スターリングの工事代金はひとまず六月一三日の支払手形決済資金に充て、本件土地の売却代金を本件手形金の支払に充てるか、あるいはこれとは逆に、スターリングの工事代金を本件手形金の支払に充て、本件土地を引当てに六月一三日の支払手形決済資金を融資するという柔軟な対応ができるところとなり、被告としては、支払手形決済資金の支援準備が整ったことになった。ところが、破産会社には、被告の知らない高利からの多額の借入があり、そのうちの一部の手形が破産会社の失念により同月一二日に支払に回ったため手形不渡を発生したものであり、被告としてはまさに寝耳に水のこととして、夢想だにしなかったものである。

(5) 原告は、被告が平成三年六月五日に破産会社の定期性預金につき出金禁止の措置をとったこと及び仮差押えの準備をしたことを害意の根拠とするが、出金禁止の措置をとったとしても、これにより直ちに破産会社が預金の払戻しをできなくなるというものではなく、ただ、それまでのように破産会社事務所内の端末操作により自由に預金を動かすことができなくなるにすぎず、また、仮差押えの準備についても、被告は破産会社の財務内容に高利の借入が含まれていることも知らされず、担保余力あるものと信じて経営再建のための運転資金の融資をし、その継続を申し出ていたものであって、けっして破産会社を見限って倒産に追い込む事態を認識していたものではない。

2  原告の主張2に対し

(一) 原告の主張2(一)は否認ないし争う。

(二) 原告の主張2(二)は否認ないし争う。

本件根抵当権設定契約の締結はいずれも、破産会社の義務に属するものである。すなわち、

(1) 被告が昭和五八年二月一二日に破産会社と取り交わした相互銀行取引約定書には、破産会社が被告に対する債務の一部でも履行を延滞し、又は延滞するおそれがある等信用が悪化した場合、又は提供中の担保について滅失若しくは価格の値下がり等のために担保が不足した場合には、被告の請求によって、直ちに被告の承認する担保若しくは増担保を差し入れ、又は保証人を立て若しくはこれを追加することという約定がある。

(2) ところで、本件手形金の支払期限は当初、平成三年三月二九日であり、これが平成三年四月三〇日、同年五月一〇日と延期されたものであるが、いずれにしても、本件根抵当権設定契約を締結した同年六月六日、同月一二日にはその支払期限を経過していたものである。

したがって、破産会社は前記銀行取引約定に基づき、被告に対し、担保提供の義務を負っていたものというべきである。

(三) 被告は、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知らなかった。

四  争点

1  破産法七二条一号に基づく否認について

(一) 本件根抵当権設定契約はいずれも、破産債権者を害するものか。

(二) 友成は、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知っていたか。

(三) 被告は、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知らなかったか。

2  破産法七二条四号に基づく否認について

(一) 本件根抵当権設定契約はいずれも、破産債権者を害するものか。

(二) 本件根抵当権設定契約の締結はいずれも、破産会社の義務に属さないものか。

(三) 被告は、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知らなかったか。

第三  争点に対する判断

一  破産法七二条一号に基づく否認について

1  争点(一)(本件根抵当権設定契約はいずれも、破産債権者を害するものか)について

(一) 前示当事者間に争いのない事実に、甲第八、九号証、同第一一号証、乙第三一、三二号証、同第三三号証の一ないし四、同第三四号証、同第三八ないし第四五号証及び証人友成の証言を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1) 破産会社は、注文住宅を主体とする一般建築等を目的として昭和五二年二月一四日、西日本ハウス工業株式会社の商号で設立され、その後平成元年一月初旬ころに、総合建設業を目指して現在の商号に変更された株式会社である。そして、設立以来破産申立に至るまで、友成がその代表取締役を務めており、第一回目の手形不渡を出した平成三年六月一二日時点での従業員数は、二八名であった。

(2) 破産会社は、設立当初より代表取締役の友成が中心となって、注文住宅を主体とした木造建築業を行っていたが、昭和五八年ころからは建築条件付での土地販売も開始した。そして、昭和五九年ころまでは不安定だった経営も、昭和五九年ころから比較的安定するようになり、注文住宅を中心に年間七〇棟ないし九〇棟の建物を建築して一五億円ないし二〇億円を売り上げ、税引後でも年間一〇〇〇万円ないし二〇〇〇万円の利益を計上するようになった。

(3) ところが、昭和六二年ころに設けた「特建事業部」による鉄骨住宅、工場、事務所ビル部門への進出に伴い多額の資金を必要とするところとなり、さらには建築条件付で販売する用地の取得費用として昭和六三年ころから多額の借入をするようになったため、販売用不動産の所有件数こそ増加したものの、これに伴って負債も飛躍的に増大し、支払利息の額は、平成元年五月から平成二年四月までの間で約一億四五五五万円、平成二年四月から平成三年六月一三日までの間では約四億八七六〇万円となって、平成三年三月末の時点では毎月約七〇〇〇万円にも上る利息の支払を余儀なくされていた。

(4) 一方、平成二年五月ころから始まった不動産市況の低迷のため、破産会社は、同年一一月ころから建築条件を付けずに販売用不動産を売却することも試みだしたが、これも思うように進まず、売却した土地に設定していた抵当権等を抹消して所有権移転登記をすることも困難となっていた。そして、平成三年二月末ころからは、支払の延滞が生じるようになり、高利の金を借りてはその返済を迫られ、手をつけてはならない販売用の土地に後順位の根抵当権設定登記や売買予約の仮登記を付ける事態にまで発展し、本件根抵当権設定契約を締結した同年六月ころには、破産会社所有の百数十件を超える不動産の中で担保余力のあるものは、幾分かあるという程度にしか残っていなかった。

(5) このような状況のなか、友成は、日々金策のみに明け暮れるようになり、自分が債権者に対し、何を言ったかわからないような状態にまで追い込まれていった結果、同年六月一二日を満期とする約束手形の所持人から、事前に手形書換等の方法で期限の猶予を得ることを失念し、同日まず第一回目の手形不渡を出し、同月一三日には第二回目の手形不渡を出して、同月一八日銀行取引停止処分を受けるに至ったものである。

(6) 破産会社は同月二八日、支払不能を理由として福岡地方裁判所に自己破産の申立をし、同年七月一一日午前一〇時、同裁判所において破産宣告を受けたが、破産管財人に選任された原告が、同年一二月四日までに調査したところでは、破産財団に帰属する財産が約一億四五七〇万円であるのに対し、財団債権として約五四三五万円、双務契約解除による返還分として約一億三五〇八円、別除権者や所有権移転を受けた債権者による届出債権額として約六二億円、その他の一般債権者による届出債権額として約一三億円が見込まれ、一般債権者への配当の見通しは全く立たない状況にあった。

(二) 右に認定したところによれば、本件根抵当権設定契約が締結された平成三年六月六日及び一二日の時点において、破産会社はすでに債務超過の状態にあったものと認めることができ、本件根抵当権設定契約により、その一般財源の減少を招き、破産債権者を害する結果となったことは明らかというべきである。

2  争点(二)(友成は、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知っていたか)について

証人友成の証言によれば、友成は、破産会社の代表取締役として、前示認定のような破産会社の経営状態を十分に認識しており、本件根抵当権設定契約締結の際、これが一般財産の減少を招き、破産債権者を害するものであることを知っていたものと認めることができる。

3  争点(三)(被告は、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知らなかったか)について

(一) 前示当事者間に争いのない事実に、甲第一〇号証、乙第二号証の一ないし一三、同第八、九号証及び証人溝江雅夫の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(1) 被告は平成三年三月一三日、破産会社に対し、スターリングから入る予定の請負工事残代金を返済財源として、手形貸付の方法により本件手形金を貸し付けた。

(2) 本件手形金の支払期限は当初、平成三年三月二九日と定められていたが、破産会社から、工事の過程で一部手直しが発生しスターリングからの入金が遅れるとの報告があったため、その支払期限はいったん平成三年四月三〇日まで延期され、その後更に同年五月一〇日まで延期された。被告はこの間、破産会社に対し、同年四月一五日に二三〇〇万円、同年五月一三日には二九〇〇万円をそれぞれ支払手形の決済資金として融資していたが、同年五月一〇日を経過してもスターリングからの入金はなく、本件手形金の支払を受けることはできなかった。

(3) そこで被告は、同年五月一三日、破産会社から、スターリングに対する請負代金債権についての債権譲渡契約書及び同通知書を徴求し、同月二九日には、スターリングの代表者に直接電話をして右債権を被告へ譲渡することの承諾を求めるとともに、友成に対しては、松尾建設に売却する予定の土地につき極度額を三〇〇〇万円とする根抵当権を設定するよう求めた。しかし、そのいずれについても友成の承諾が得られなかったため、同月三一日、友成の申し出に従い、本件手形金支払の担保として、破産会社から同年六月四日付の小切手(額面合計三〇〇〇万円)の交付を受けた。

(4) ところが、同年六月四日、右小切手についても決済資金の手当がつかず依頼返却となったため、被告は友成に対し、再度担保物件の提供を要求する一方、同年六月五日には、破産会社から担保としての提供を受けていなかった非拘束性の定期預金二〇〇万円についても出金禁止の措置をとり、破産会社内の端末機械で自由に右預金の出し入れをすることができないようにするとともに、司法書士と相談して破産会社に対する不動産仮差押手続の準備を開始した。

(5) 本件根抵当権設定契約は、このような経過を経て、同年六月六日及び一二日に締結されたものである。

(二) 右に認定したところによれば、被告は、本件手形金につき延滞が発生した後、当初の支払期限の平成三年三月二九日をいったん同年四月三〇日に延期し、これを更に同年五月一〇日まで延期したにもかかわらず、その支払を得られず、その支払の担保として破産会社から受け取った同年六月四日付の小切手についても、決済資金の手当がつかないまま依頼返却となった等の事実経過のもとにおいて、すでに平成三年五月一三日の時点で、破産会社のスターリングに対する請負代金債権について債権譲渡契約書及び同通知書を徴求し、同月二九日には、スターリングの代表者から右債権譲渡の承諾を求むべく同代表者に直接電話をかけて交渉している上、同年六月五日に至っては、破産会社の非拘束性の定期預金について出金禁止の措置をとるとともに不動産仮差押手続の準備にまで着手しているのであって、自己の債権保全策を着々と強化していることが認められる。

本件根抵当権設定契約は、このような経過を経て同年六月六日及び一二日に締結されたものであるところ、右のような被告の行動の推移に照らせば、被告は、本件根抵当権設定契約締結前の時点で、すでに自己の債権の保全に不安のあることを認識しており、本件根抵当権設定契約締結の際には、単なる不安という程度ではなく、本件土地につき根抵当権の設定を受けておかなければ、自己の債権の満足に不足を生ずることを認識していたものといわざるをえない。

被告は、破産会社が第一回目の手形不渡を出したのは本来の手形決済日の前日の平成三年六月一二日であり、破産会社でさえも右手形が支払に回ってくることを予期していなかったから、被告にとって破産会社の倒産は全く予想外の出来事であったとして、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することは知らなかったと主張する。

しかしながら、「破産債権者を害する」とは、債務者の資産状態がすでに実質的な危機状態にあるため、当該行為の結果として、債務者の一般財源が減少し、破産債権者の満足に不足を生ずることをいうものであるから、被告が、前示のような認識を有していた以上、破産会社の倒産を予測していなかったとしても、本件根抵当権設定契約締結の際、破産債権者を害することを知らなかったとはいえないものというべきであり、被告の右主張は、採用することができない。

二  結語

以上の次第で、破産法七二条一号に基づく否認を理由とする原告の本訴各請求は、いずれも理由があるので認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官石原稚也)

別紙物件目録

一 所在 福岡市中央区梅光園二丁目

地番 七五番

地目 宅地

地積 99.17平方メートル

二 所在 福岡市中央区梅光園二丁目

地番 七六番

地目 宅地

地積99.17平方メートル

三 所在 福岡県宗像市大字三郎丸字小浦

地番 八〇弐番壱七五

地目 雑種地

地積 壱弐平方メートル

四 所在 福岡県宗像市大字三郎丸字小浦

地番 八〇弐番壱八〇

地目 雑種地

地積壱四平方メートル

五 所在 福岡県宗像市大字三郎丸字小浦

地番 八参六番壱

地目 原野

地積 参〇六平方メートル

六 所在 福岡県宗像市大字三郎丸字小浦

地番 八参六番弐〇

地目 原野

地積壱四五平方メートル

七 所在 福岡県宗像市大字三郎丸字小浦

地番 八参八番壱

地目 原野

地積 弐壱五平方メートル

別紙登記目録

一 福岡法務局平成参年六月六日受付第弐壱四五八号根抵当権設定登記

二 福岡法務局東郷出張所平成参年六月壱弐日受付第五八参参号根抵当権設定登記

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